Strategy Paper #007
― 『海外販売振興策』から『創作循環戦略』へ ―
ここまで散々、「国がエンタメを育てようとしすぎるな」と書いてきた。
005では「輸出額を最大化する政策」ではなく「創作の循環を最大化する戦略」を考えるべきだとした。006では、制作や企業経営の現場から見ても、合理化や選別を進めすぎれば、ヒットが生まれる余白そのものを失いかねないことを確認した。
そうすると当然、次の問いが来る。
じゃあ、どうすればいいのか。
何もしないのか。海外展開を支援しないのか。20兆円という目標を捨てるのか。
そういう話ではない。
むしろ、今ある政策をもっと意味のあるものにするために、戦略の順番を変えればいい。
やることは3つ。
① 20兆円をKGIからKPIへ
② 日本の創作土壌を強くする
③ エンタメ生態系アセスメントを入れる
1.20兆円を、KGIからKPIへ
海外売上20兆円という目標を捨てる必要はない。
問題は、その数字を戦略の一番上に置くことである。
最上位に置くべきなのは、「創作の循環を持続的に拡大すること」ではないだろうか。
創作が生まれる。人に届く。実る。次へ還る。また新しい創作が生まれる。
この循環をKGIに置き、その下に、創作の量と多様性、到達、価値創出、再投資を測るKPIを置く。
海外売上20兆円は、その中の重要な海外展開KPIとして位置づける。
2.海外販売支援だけでなく、日本の「創作土壌」を強くする
エンタメ政策というと、海外イベント、翻訳、ローカライズ、マーケティング、商談会、ライセンス支援、流通支援といった「出来上がった作品を海外へ売る」施策が中心になりやすい。
もちろん必要だ。
しかし、それだけでは循環の下流しか見ていない。
漫画、同人、ライブハウス、大学、専門学校、小さな制作会社、個人クリエイター、ファンコミュニティ、地方文化、書店、映画館、ゲームセンター、インターネット、新しい技術、豊富な過去作品、そして普通の人が自由に「好き」を追求できる社会。
そうしたもの全体が創作土壌である。
3.国内政策と海外政策を、一つの循環として見る
日本で創作が生まれる。世界へ届く。海外にファンが生まれる。収益が生まれる。海外の才能や知識や文化ともつながる。
そこから得た資金、経験、人材、ネットワークが日本へ還る。そしてまた次の創作が生まれる。
海外展開とは、日本から外へ一方通行で商品を輸出することではない。
世界とつながることで、日本の創作土壌そのものを豊かにする循環でもある。
4.そして、政策で生態系を壊さない
良かれと思って行った政策が、創作の生態系を壊す可能性を政策実施前からチェックする。
そのために、「エンタメ生態系アセスメント」を導入する。
売上だけではなく、多様性、新規参入、小規模事業者、クリエイター所得、退出率、契約環境、競争環境、表現の自由度、選択肢、次世代人材、価値還元を見る。
5.アセスメントは、3段階で行う
実施前には、誰が得をし誰が不利になるか、副作用は何か、5年後・10年後に何が起こり得るかを問う。
実施中には、売上だけでなく、多様性・新規参入・所得・退出・市場集中・価値還元を追う。
終了後には、その政策がなくても産業は以前より自走できるようになったかを問う。
売上だけで評価しない。生態系そのものが強くなったかを見る。
6.今の政策メニューを、全部捨てる必要はない
必要な施策はたくさんある。
問題は、それらを束ねる上位戦略である。
「海外売上20兆円」という一つの数字から逆算するのか。
それとも、「日本から面白いものが生まれ続け、それが世界へ届き、得た価値がまた次の創作へ戻る」という循環から逆算するのか。
政策メニューを全部捨てる必要はない。
戦略の「上」を組み替えればいい。
結び
海外売上は大事だ。ただし最上位目標ではない。
最上位に置くのは、面白いものが生まれ、人へ届き、価値が生まれ、その価値がつくった人へ還り、また次の創作が始まることだ。
「輸出額を最大化する政策」から、
「創作の循環を最大化する戦略」へ。
