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Strategy Paper 新稿

― クリスタ/FANBOX問題から考える、日本のコンテンツ政策の次の難所 ―


Strategy Paper 新稿『作品に金を配る前に、創作の循環を守れ』—クリスタ/FANBOX問題から考える日本コンテンツ政策

はじめに――政策は前に進んだ。だから、その先を見たい

まず最初に書いておきたい。

いまの日本のコンテンツ政策は、以前よりかなり前に進んだと思っている。

コンテンツ産業を成長産業として位置づけ、国が大規模・長期・戦略的に支援する。2025年度補正では、コンテンツ振興関連予算が556.3億円まで拡大した。経済産業省は「作品の中身に口を出さない」「挑戦者を優先する」といった原則も掲げている。

これは大きな前進だ。ここを進めてきた人たちを批判したいわけではない。

むしろ、その先の話をしたい。

国が作品にお金を出すようになった今、次に見なければならないのは、作品が生まれ続ける構造そのものではないか。

参考:経済産業省「コンテンツ産業」/コンテンツ振興に関連する予算の全体像

1.クリスタとFANBOXで見えているもの

2026年9月、CLIP STUDIO ASSETSでは多数の素材が非公開となり、セルシスは一部に誤判定があったことを認めた。人物素材だけでなく、ペンやフキダシ、公式素材まで対象になったと報じられている。

同じ時期、pixivFANBOXでは、複数のクリエイターが、過去作品について「決済事業者からの指摘」を理由とする公開停止通知を受けたと報告した。

この二つを同じ原因の事件として扱うべきではない。クリスタについては、現時点で決済事業者の関与が確認されているわけではない。

ただ、一段高いところから見ると共通する問いがある。

創作者が、創る。発表する。ファンに届く。収益を得る。その収益で、また次を創る。

この循環の途中にある、創作ツール、プラットフォーム、決済というインフラを、誰が見ているのか。

参考:ITmedia NEWS「『クリスタ』素材、大量非公開でユーザー混乱」/GIGAZINE 2026年9月25日ヘッドライン

2.守るべきは、作品だけではない

コンテンツ産業は、大企業が完成品をつくって輸出するだけの産業ではない。

一人のイラストレーターが素材をつくる。漫画家が作品を公開する。ファンが少額を支援する。同人で試す。小さなコミュニティで反応を確かめる。そこで得たお金、経験、技術、ファンとの関係が次の制作へ戻る。

その無数の循環のどこかから、次のヒットや巨大IPが生まれる。

だから、作品への投資を増やすだけでは足りない。

「創る→届ける→稼ぐ→また創る」という経路そのものが細くなっていないか。

ここまで見て、初めて「創作の循環」を政策として捉えたことになる。

3.国は、この問題を知らないわけではない

決済の問題については、国がまったく気づいていないわけでもない。

2024年12月には、動画やイラストを提供するコンテンツ企業に対するクレジットカード会社・決済代行会社の決済拒否が国会で取り上げられた。政府も、コンテンツ事業者が取引を停止された事例について情報を得ていると答弁している。

一方で、対応の必要性や独占禁止法上の評価については、個別具体的な事情により判断するとされた。

この答弁自体は、法執行として見れば自然だと思う。

ただ、産業政策としては別の問いが残る。

個別案件ではなく、同じ構造から同じ問題が繰り返し起きる可能性を、誰が見るのか。

参考:衆議院「クレジットカード及び決済代行会社の決済拒否に関する質問に対する答弁書」

4.難しいから、オーナーが生まれにくい

ここは、誰かの怠慢で説明すると本質を見誤る。

この種の問題は、とにかく扱いにくい。

コンテンツ政策だけでは終わらない。決済、競争政策、プラットフォーム、海外事業者との関係、表現、消費者保護までまたぐ。

一つの省庁、一つの部署、一人の担当者の中できれいに完結しない。

しかも、補助金のように「何件採択した」「いくら投資した」と成果を示しにくい。解決にも時間がかかる。

すると、問題が見えていない人もいるだろうし、見えていても優先順位を上げにくい人もいるだろう。

ここで必要なのは、誰かを責めることではない。

「誰の管轄か」ではなく、「誰が最後まで持つか」を決めることだ。

5.国にしかできない仕事は、難所にある

どの作品が売れるか。どのゲームがヒットするか。どのIPへ投資すべきか。

そこは民間の方がうまい。

一方で、複数の省庁にまたがり、海外事業者も絡み、一社では解けない構造問題は、誰かが全体を見なければ進まない。

たとえば、創作・流通・決済のどこにボトルネックがあるのかを継続的に把握する。特定の経路に依存しすぎていないかを見る。透明性や異議申立ての仕組みを検討する。代替経路を増やす。関係省庁と民間事業者をつなぐ。

地味だ。時間もかかる。成果もすぐには見えない。

しかし、そういう問題こそ、放っておけば自然には解けない。

6.未来の問題ほど、手を出した人が報われにくい

これはコンテンツ産業に限った話でもない。

年金や社会保障のように、時間軸が長く、利害関係者が多く、短期では成果が見えない問題ほど、先送りするインセンティブが生まれやすい。

手をつければ仕事は増える。調整も増える。すぐに成果が出るとは限らない。

だからこそ、未来に責任を持つとは、目の前で評価されやすい仕事だけではなく、誰も拾いたがらない難しい問題を拾うことなのだと思う。

全部を一気に解く必要はない。

まず、「これは誰かが持つべき問題だ」と認識するところから始めればいい。

結び――国は勝者を選ばない。次の勝者が生まれない理由を取り除く

私は、いまのコンテンツ政策を後戻りさせたいわけではない。

むしろ逆だ。

国がコンテンツ産業へ本気でお金を入れ始めたからこそ、その投資を生かすためにも、産業の循環全体を見るところまで政策を進めてほしい。

作品を支援する。

同時に、作品が生まれ、届き、収益になり、その価値が次の創作へ戻る道を守る。

どちらかではない。両方が必要だ。

守るべきなのは、今ある作品だけではない。次の作品が生まれ続ける能力である。

国は勝者を選ばない。

次の勝者が生まれない理由を取り除く。

簡単な仕事ではない。

だからこそ、誰かが始めなければならない。